圧縮性流体の内部流れにおいて、摩擦を無視し、外部との熱交換(加熱または冷却)のみを考慮した定常な等断面流れを**レイリー流れ(Rayleigh Flow)**と呼びます。
ガスタービンの燃焼器内での燃焼反応や、熱交換器内の流れの簡易モデルとして非常に重要な理論です。本記事では、レイリー流れを支配する基礎方程式と、その物理的特性(レイリー線)について解説します。
1. レイリー流れの定義と前提条件
レイリー流れを考える際、以下の条件を前提とします。
- 定常流れである
- 等断面流れ(流路断面積 \(A = \text{const.}\))である
- 壁面摩擦を無視する(粘性の影響がない)
- 外部との熱授受がある(加熱 \(q > 0\) または 冷却 \(q < 0\))
- 流体は理想気体である
2. 支配方程式(基礎方程式)
断面1から断面2への変化を考えます。流路断面積 \(A\) が一定であるため、以下の式が成り立ちます。
2.1 連続の式(質量保存則)
$$\rho_1 u_1 = \rho_2 u_2 = G = \text{const.}$$
ここで、\(G\) は単位面積当たりの質量流量(質量流束)です。
2.2 運動量の式
摩擦を無視するため、圧力差による力のみが運動量の変化に寄与します。
$$P_1 A – P_2 A = \dot{m}(u_2 – u_1)$$
$$P_1 + \rho_1 u_1^2 = P_2 + \rho_2 u_2^2 = \text{const.}$$
この \(P + \rho u^2\) が一定であるという点が、レイリー流れの最大の特徴です。
2.3 エネルギーの式
外部からの受熱量 \(q\) を考慮します。
$$q = h_2 + \frac{1}{2}u_2^2 – \left( h_1 + \frac{1}{2}u_1^2 \right) = h_{02} – h_{01}$$
ここで、\(h_0\) は全エンタルピー(淀みエンタルピー)です。加熱されると全温度 \(T_0\)が上昇し、冷却されると低下します。
2.4 状態方程式
$$P = \rho R T$$
3. レイリー線(Rayleigh Line)
上記の「連続の式」と「運動量の式」から、エントロピー \(s\) とエンタルピー \(h\)(または温度 \(T\))の関係をグラフ化したものをレイリー線と呼びます。
h-s線図上の特徴
レイリー流れを \(h-s\) 線図に描くと、特有の凸状の曲線になります。
- マッハ数 \(M=1\) の点:エントロピー \(s\) が最大となる点です。
- 加熱の影響:加熱(受熱)すると、状態変化は必ずエントロピーが増大する方向(右側)へ進みます。
- 亜音速 (\( \, M \, < \, 1\)):加熱によりマッハ数が増加し、 \(M=1\) に近づく。
- 超音速 (\( \, M \, > \, 1\)):加熱によりマッハ数が減少し、 \(M=1\) に近づく。
- 冷却の影響:冷却するとエントロピーが減少し、状態変化は左側へ進みます。マッハ数は \(M=1\) から遠ざかります。
温度の極大点
興味深いことに、レイリー線において温度 \(T\) が最大となる点は \(M=1\) ではありません。
比熱比を \(\gamma\) とすると、温度 \(T\) は \(M = 1/\sqrt{\gamma}\)(空気の場合 約0.85)の時に最大となります。そのため、亜音速域での加熱において「温度は下がるが全温度(エネルギー)は上がる」という領域がわずかに存在します。
4. マッハ数による諸量の関係式
各状態量を、チョーク状態(\(M=1\) の状態。変数は「*」を付す)との比として表すと、マッハ数 \(M\) のみの関数で記述できます。
- 静圧比:$$\frac{P}{P^*} = \frac{1+\gamma}{1+\gamma M^2}$$
- 温度比:$$\frac{T}{T^*} = \left( \frac{M(1+\gamma)}{1+\gamma M^2} \right)^2$$
- 全温度比:$$\frac{T_0}{T_0^*} = \frac{2(\gamma+1)M^2}{(1+\gamma M^2)^2} \left( 1 + \frac{\gamma-1}{2}M^2 \right)$$
- 密度(流速)比:$$\frac{\rho^*}{\rho} = \frac{u}{u^*} = \frac{(\gamma+1)M^2}{1+\gamma M^2}$$
5. サーマルチョーク(Thermal Choking)
レイリー流れにおいて最も重要な物理現象がサーマルチョークです。
加熱を続けると、流れは \(M=1\)(エントロピー最大点)に向かって変化します。しかし、\(M=1\) に達した状態でさらに熱を加える(受熱量を増やす)ことは、理論上この曲線を越えることを意味し、不可能です。
もし \(M=1\) に達した後にさらに加熱を続けようとすると、上流側の状態(流量や圧力)が変化して、新しいレイリー線に移行します。これをサーマルチョークと呼び、燃焼器などの設計において供給できる熱量の限界を決定する要因となります。
まとめ
- レイリー流れは、断面一定・摩擦なし・熱授受ありの流れ。
- \(P + \rho u^2 = \text{const.}\) が成立する。
- 加熱すると、亜音速・超音速に関わらずマッハ数は 1 に近づく。
- エントロピー最大点は \(M=1\) であり、これ以上の加熱はチョークを引き起こす。
ファノ流れ(摩擦による変化)とレイリー流れ(熱による変化)を対比して理解することで、実際の複雑な内部流れの解析が可能になります。
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