前回の記事(理論編)では、チョーク流れの物理的な仕組みと発生条件について解説しました。今回は「実際に流量を計算する方法」にフォーカスします。 「この圧力でノズルからどれくらい空気が流れる?」「配管に穴が開いた時のエア漏れ量は?」といった疑問に答えるための具体的な計算ステップと、やりがちな計算ミス(落とし穴)を紹介します。
計算例:φ0.7ノズルのエアー流量計算
流体が空気のφ0.7ノズルを例に挙げて、具体的に計算してみましょう。
【条件】
- 流体:空気 \(\gamma = 1.4, R = 287\,\mathrm{[J/(kg\cdot K)]} \)
- 配管圧力:\( 0.5\,\mathrm{[MPaG]} \)(ゲージ圧)
- 温度:\( 20\,\mathrm{[^\circ C]} \)
- ノズル直径:\( 0.7\,\mathrm{[mm]} \)
- 放出先:大気中
- ノズル長さは十分短いとします。
STEP1:単位の換算とノズル流路面積の算出
まず、計算しやすいように圧力は \(\mathrm{[Pa \cdot abs]}\) 絶対圧、温度は \(\,\mathrm{[K]}\) 、長さは \(\mathrm{[m]}\)に直します。
- 一次圧 \(P_0 = 0.5×10^6 + 0.101325×10^6 = 601325 \,\mathrm{[Pa \cdot abs]}\)
- 二次圧 \(P_b = 0×10^6 + 0.101325×10^6 = 101325 \,\mathrm{[Pa \cdot abs]}\)
- 一次側温度 \(T_0 = 20 + 273.15 = 293.15 \,\mathrm{[K]}\)
- ノズル直径 \( d = 0.7×10^{-3} \,\mathrm{[m]} \)
- ノズル流路面積 \( A_e = \frac{\pi}{4} \times d^2 = 3.848 \times 10^{-7}\,\mathrm{[m^2]} \)
※大気圧は\( 0.101325 × 10^6 \,\mathrm{[Pa \cdot abs]}\)です。
STEP2:チョーク判定
チョーク流れが発生する臨界圧力比を求めます。空気の場合 \(\gamma = 1.40 \) なので
$$\frac{P^*}{P_0}=\left(\frac{2}{γ+1}\right)^\frac{γ}{γ-1}=0.528$$
です。
次にこのノズルの二次圧と一次圧の比を求めます。
$$\frac{P_b}{P_0} = \left(\frac{101325}{601325}\right) = 0.169 $$
\( \frac{P_b}{P_0} = 0.169 < \frac{P_*}{P_0} = 0.528 \) となり、圧力比は臨界圧力比より小さいのでこのノズルはチョーク流となります。なので、チョーク流れの式が使用可能です。
STEP3:流量計算
チョーク流れの流量式は
$$\dot{m}^*=C_d A_e P_0\sqrt{\frac{\gamma}{R T_0}\left(\frac{2}{\gamma+1}\right)^{\frac{\gamma+1}{\gamma-1}}}$$
でした。空気の比熱比は \( \gamma = 1.40 \) なので、
$$\sigma^*=\sqrt{\gamma\left(\frac{2}{\gamma+1}\right)^{\frac{\gamma+1}{\gamma-1}}} = 0.685 $$
です。この \(\sigma^*\) は臨界流れ係数と呼ばれます。空気の場合は上記の通り 0.685 になります。
流量係数 \( C_d \) は 0 ~ 1 の値をとる係数です。ノズルやオリフィスの場合、おおよそ0.60~0.98程度の範囲です。なめらかなノズルの場合は0.85~0.98の間に収まることが多いです。今回は、流量係数 \( C_d = 0.90 \) を採用します。実際には実験やCFD(数値流体解析)で求める必要があります。流れ得る最大流量が知りたければ \( C_d = 1 \) として計算すれば、それ以上は流れない流量を知ることができます。
流量は
$$\dot{m}^*=\frac{C_d A_e P_0}{\sqrt{R T_0}}\sigma^* = \frac{0.90 × 3.848 \times 10^{-7}\,× 601325}{\sqrt{287 ×297.15}} × 0.685 = 0.000492 \mathrm{[kg/s]} $$
となります。
STEP4:流量単位の換算
空気流量の場合、質量流量[kg/s]の他、体積流量[L/min]で示すことも多いです。20℃での体積流量を Q [L/min]とすると、
$$ Q = \frac{\dot{m}^* × 60 × 1000}{ρ} = 24.46 \mathrm{[L/min]} $$
となります。ここで、 \( ρ \) は20℃大気圧下での空気密度で、1.206 \(\mathrm{[kg/m^3]}\) です。
以上でこのノズルからの空気流量を計算することができました。
今回はノズルからの空気流量を計算しましたが、漏れ量が○○[L/min]だったから穴径は・・・[mm] のような逆算も可能です。
もちろん、酸素や窒素、水素、蒸気など他の圧縮性流体の場合も同様に計算可能です。
やりがちな計算ミス
- 誤:圧力をゲージ圧のまま計算してしまう。→ 正:圧力は必ず絶対圧[Pa・abs]で計算する。
- 誤:温度を℃の単位のまま計算してしまう。→ 正:温度は必ず絶対温度[K]で計算する。
まとめ
- 流量計算の実際での使用方法を各ステップ毎に詳細に計算しました。
- 計算するときは単位に十分注意が必要です。
- ノズルやオリフィスからの流量の計算だけでなく、漏れ量から穴径を逆算することも可能です。
次回は、チョーク流れに達しない場合の流量計算の理論について記載します。

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