本記事では、圧縮性流体のノズルやオリフィスなどの絞りにおける**亜音速流れ(subsonic flow)**について、数式の背景と物理的意味を重視して解説します。
「チョーク流れ」に至る前の段階で、流体がどのような挙動を示すのか、なぜ一般的な「非圧縮性流体(水など)」の計算と異なるのかを理解することを目的とします。
目次
- 亜音速流れとは何か
- なぜ「圧縮性」を考える必要があるのか?
- マッハ数と流体の状態変化
- 亜音速流れの質量流量式
- 実務上の注意と非圧縮性近似の限界
- まとめ
亜音速流れとは何か
定義
亜音速流れとは、流路内のあらゆる場所において**流速が音速未満(マッハ数 \(M < 1\) )**である状態の流れを指します。
この領域では、流体は「圧縮性(密度が変化する性質)」を持ちながらも、まだ音速の壁には到達していないため、直感的に理解しやすい挙動と、圧縮性特有の挙動が混在しています。
物理的な特徴
亜音速流れの最大の特徴は、下流の情報(圧力変化)が上流に伝わることです。
- チョーク流れの場合: 流速=音速 となるため、下流の圧力変動が上流へ遡れません。
- 亜音速流れの場合: 音速の方が流速より速いため、下流で圧力を下げると、その「圧力低下」という情報(波)が上流へ伝わり、上流側からさらに多くの流体が押し寄せます。
つまり、亜音速領域では、背圧(二次圧)を下げれば下げるほど、質量流量は増加します。
なぜ「圧縮性」を考える必要があるのか?
水のような液体(非圧縮性流体)では、ベルヌーイの定理により、圧力エネルギーと速度エネルギーの交換だけで現象を説明できます。密度 \(\rho\) は一定です。
しかし、気体(圧縮性流体)の場合、圧力が下がると気体が膨張し、密度 \(\rho\) が低下します。
- 流路が狭まると流速が上がる(加速)。
- 流速が上がると圧力が下がる。
- 圧力が下がると密度が下がる(膨張)。
この「密度の低下」を考慮しないと、実際の流量よりも過大な見積もりをしてしまったり、配管径の選定を誤ったりする原因になります。
マッハ数と流体の状態変化
圧縮性流体の挙動を支配するのはマッハ数 \(M\) です。等エントロピー流れ(断熱・可逆)を仮定すると、静圧 \(P\) や静温度 \(T\) は、停止状態(タンク内など)の圧力 \(P_0\)、温度 \(T_0\) に対して以下の関係で変化します。
圧力と温度の関係式
$$\frac{P_0}{P} = \left( 1 + \frac{\gamma-1}{2}M^2 \right)^{\frac{\gamma}{\gamma-1}}$$
$$\frac{T_0}{T} = 1 + \frac{\gamma-1}{2}M^2$$
- \(P, T\):流れの中の静圧、静温度
- \(P_0, T_0\):全圧(よどみ点圧力)、全温度
- \(\gamma\):比熱比(空気なら 1.4)
- \(M\):マッハ数
この式からわかることは、流速(マッハ数)が上がれば上がるほど、静圧と温度は急激に低下するということです。この熱力学的な変化が流量計算のベースになります。
亜音速流れの質量流量式
チョークしていない状態(亜音速)での質量流量は、以下の式で計算されます。
$$\dot{m} = C_d A_e P_0 \sqrt{ \frac{2\gamma}{(\gamma-1)R T_0} \left[ \left(\frac{P_b}{P_0}\right)^{\frac{2}{\gamma}} – \left(\frac{P_b}{P_0}\right)^{\frac{\gamma+1}{\gamma}} \right] }$$
- \(\dot{m}\):質量流量 \(\mathrm{[kg/s]}\)
- \(C_d\):流量係数 \(\mathrm{[-]}\)
- \(A_e\):絞り部の流路面積 \(\mathrm{[m^2]}\)
- \(P_0\):一次圧 \(\mathrm{[Pa \cdot abs]}\)
- \(P_b\):背圧(二次圧) \(\mathrm{[Pa \cdot abs]}\) ※ここでは絞り部の静圧と等しいと仮定
- \(R\):気体定数 \(\mathrm{[J/(kg \cdot K)]}\)
- \(T_0\):一次側温度 \(\mathrm{[K]}\)
- \(\gamma\):比熱比 \(\mathrm{[-]}\)
式の挙動と物理的意味
この式は一見複雑ですが、\(\left[ (\dots)^{\frac{2}{\gamma}} – (\dots)^{\frac{\gamma+1}{\gamma}} \right]\) の部分に注目すると意味が見えてきます。
- \(P_0 = P_b\) のとき: 括弧内が \( 1 – 1 = 0\) となり、流量はゼロになります。(差圧がないので流れない)
- \( P_b\) が下がると: 差圧が生まれ、流量 \(\dot{m}\) は増加します。
- 臨界圧力比に達すると: 括弧内の値が最大値となり、それ以降は式が適用できなくなります(チョーク流れの式へ移行)。
実務上の注意と非圧縮性近似の限界
1. どこまで「非圧縮(水と同じ式)」で計算して良いか?
実務では簡易的に \(\sqrt{\Delta P}\) に比例する非圧縮性流体の式を使うことがありますが、気体の場合、マッハ数 \(M \approx 0.3\) を超えると誤差が無視できなくなります。
- \(M < 0.3\): 密度の変化は5%以下。簡易式でもOK。
- \(M > 0.3\): 密度の低下が効いてくるため、上記式などの圧縮性流体計算が必要。
2. 流量係数 \(C_d\) の扱い
亜音速領域では、レイノルズ数やマッハ数の変化により流量係数 \(C_d\) も微妙に変化しますが、多くの実用計算では一定値(オリフィスなら0.6~0.7程度、ノズルなら0.90~0.98程度)として扱われることが多いです。高精度が求められる場合はメーカーの特性曲線を参照してください。
3. 設計での考え方
- チョークとの境界: 設計圧力比 \(P_b/P_0\) が臨界圧力比(空気で約0.528)より大きい場合は、本記事の亜音速の式を使います。
- 制御性: 亜音速領域では、背圧(下流の圧力)をバルブ等で操作することで、流量をコントロール可能です。これはチョーク流れ(背圧操作が効かない)との大きな違いです。
まとめ
亜音速流れは、チョーク流れの手前の状態であり、以下の特徴を持ちます。
- 流速は音速未満である。
- 下流の圧力情報を上流が受け取るため、背圧を下げれば流量は増える。
- ただし、密度の低下(膨張)を伴うため、単なる差圧の平方根(\(\sqrt{\Delta P}\))とは異なるカーブで流量が増加する。
流量計算を行う際は、まず圧力比 \(P_b/P_0\) を確認し、それが臨界圧力比より大きい(亜音速)か、小さい(チョーク)かを判定してから、適切な式を選択することが重要です。
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