圧縮性流体 絞りの亜音速流れ ~理論編~

本記事では、圧縮性流体のノズルやオリフィスなどの絞りにおける**亜音速流れ(subsonic flow)**について、数式の背景と物理的意味を重視して解説します。

「チョーク流れ」に至る前の段階で、流体がどのような挙動を示すのか、なぜ一般的な「非圧縮性流体(水など)」の計算と異なるのかを理解することを目的とします。

目次

  1. 亜音速流れとは何か
  2. なぜ「圧縮性」を考える必要があるのか?
  3. マッハ数と流体の状態変化
  4. 亜音速流れの質量流量式
  5. 実務上の注意と非圧縮性近似の限界
  6. まとめ

亜音速流れとは何か

定義

亜音速流れとは、流路内のあらゆる場所において**流速が音速未満(マッハ数 \(M < 1\) )**である状態の流れを指します。

この領域では、流体は「圧縮性(密度が変化する性質)」を持ちながらも、まだ音速の壁には到達していないため、直感的に理解しやすい挙動と、圧縮性特有の挙動が混在しています。

物理的な特徴

亜音速流れの最大の特徴は、下流の情報(圧力変化)が上流に伝わることです。

  • チョーク流れの場合: 流速=音速 となるため、下流の圧力変動が上流へ遡れません。
  • 亜音速流れの場合: 音速の方が流速より速いため、下流で圧力を下げると、その「圧力低下」という情報(波)が上流へ伝わり、上流側からさらに多くの流体が押し寄せます。

つまり、亜音速領域では、背圧(二次圧)を下げれば下げるほど、質量流量は増加します


なぜ「圧縮性」を考える必要があるのか?

水のような液体(非圧縮性流体)では、ベルヌーイの定理により、圧力エネルギーと速度エネルギーの交換だけで現象を説明できます。密度 \(\rho\) は一定です。

しかし、気体(圧縮性流体)の場合、圧力が下がると気体が膨張し、密度 \(\rho\) が低下します。

  1. 流路が狭まると流速が上がる(加速)。
  2. 流速が上がると圧力が下がる。
  3. 圧力が下がると密度が下がる(膨張)

この「密度の低下」を考慮しないと、実際の流量よりも過大な見積もりをしてしまったり、配管径の選定を誤ったりする原因になります。


マッハ数と流体の状態変化

圧縮性流体の挙動を支配するのはマッハ数 \(M\) です。等エントロピー流れ(断熱・可逆)を仮定すると、静圧 \(P\) や静温度 \(T\) は、停止状態(タンク内など)の圧力 \(P_0\)、温度 \(T_0\) に対して以下の関係で変化します。

圧力と温度の関係式

$$\frac{P_0}{P} = \left( 1 + \frac{\gamma-1}{2}M^2 \right)^{\frac{\gamma}{\gamma-1}}$$

$$\frac{T_0}{T} = 1 + \frac{\gamma-1}{2}M^2$$

  • \(P, T\):流れの中の静圧、静温度
  • \(P_0, T_0\):全圧(よどみ点圧力)、全温度
  • \(\gamma\):比熱比(空気なら 1.4)
  • \(M\):マッハ数

この式からわかることは、流速(マッハ数)が上がれば上がるほど、静圧と温度は急激に低下するということです。この熱力学的な変化が流量計算のベースになります。


亜音速流れの質量流量式

チョークしていない状態(亜音速)での質量流量は、以下の式で計算されます。

$$\dot{m} = C_d A_e P_0 \sqrt{ \frac{2\gamma}{(\gamma-1)R T_0} \left[ \left(\frac{P_b}{P_0}\right)^{\frac{2}{\gamma}} – \left(\frac{P_b}{P_0}\right)^{\frac{\gamma+1}{\gamma}} \right] }$$

  • \(\dot{m}\):質量流量 \(\mathrm{[kg/s]}\)
  • \(C_d\):流量係数 \(\mathrm{[-]}\)
  • \(A_e\):絞り部の流路面積 \(\mathrm{[m^2]}\)
  • \(P_0\):一次圧 \(\mathrm{[Pa \cdot abs]}\)
  • \(P_b\):背圧(二次圧) \(\mathrm{[Pa \cdot abs]}\) ※ここでは絞り部の静圧と等しいと仮定
  • \(R\):気体定数 \(\mathrm{[J/(kg \cdot K)]}\)
  • \(T_0\):一次側温度 \(\mathrm{[K]}\)
  • \(\gamma\):比熱比 \(\mathrm{[-]}\)

式の挙動と物理的意味

この式は一見複雑ですが、\(\left[ (\dots)^{\frac{2}{\gamma}} – (\dots)^{\frac{\gamma+1}{\gamma}} \right]\) の部分に注目すると意味が見えてきます。

  1. \(P_0 = P_b\) のとき: 括弧内が \( 1 – 1 = 0\) となり、流量はゼロになります。(差圧がないので流れない)
  2. \( P_b\) が下がると: 差圧が生まれ、流量 \(\dot{m}\) は増加します。
  3. 臨界圧力比に達すると: 括弧内の値が最大値となり、それ以降は式が適用できなくなります(チョーク流れの式へ移行)。

実務上の注意と非圧縮性近似の限界

1. どこまで「非圧縮(水と同じ式)」で計算して良いか?

実務では簡易的に \(\sqrt{\Delta P}\) に比例する非圧縮性流体の式を使うことがありますが、気体の場合、マッハ数 \(M \approx 0.3\) を超えると誤差が無視できなくなります。

  • \(M < 0.3\): 密度の変化は5%以下。簡易式でもOK。
  • \(M > 0.3\): 密度の低下が効いてくるため、上記式などの圧縮性流体計算が必要。

2. 流量係数 \(C_d\) の扱い

亜音速領域では、レイノルズ数やマッハ数の変化により流量係数 \(C_d\) も微妙に変化しますが、多くの実用計算では一定値(オリフィスなら0.6~0.7程度、ノズルなら0.90~0.98程度)として扱われることが多いです。高精度が求められる場合はメーカーの特性曲線を参照してください。

3. 設計での考え方

  • チョークとの境界: 設計圧力比 \(P_b/P_0\) が臨界圧力比(空気で約0.528)より大きい場合は、本記事の亜音速の式を使います。
  • 制御性: 亜音速領域では、背圧(下流の圧力)をバルブ等で操作することで、流量をコントロール可能です。これはチョーク流れ(背圧操作が効かない)との大きな違いです。

まとめ

亜音速流れは、チョーク流れの手前の状態であり、以下の特徴を持ちます。

  • 流速は音速未満である。
  • 下流の圧力情報を上流が受け取るため、背圧を下げれば流量は増える
  • ただし、密度の低下(膨張)を伴うため、単なる差圧の平方根(\(\sqrt{\Delta P}\))とは異なるカーブで流量が増加する。

流量計算を行う際は、まず圧力比 \(P_b/P_0\) を確認し、それが臨界圧力比より大きい(亜音速)か、小さい(チョーク)かを判定してから、適切な式を選択することが重要です。


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